
日本の文化
日本の美術
日本の美術について語る時よく言われるのが「和様化」ということです。奈良時代以降に中国や朝鮮半島などから受け入れた外国の文化を日本の環境や日本人の感性に合わせて日本風に改良したもの、という意味です。外国の文化を積極的に受け入れ、日本人の好みに合ったものに変化させるという作業が繰り返されてきました。その中で平安時代や、鎖国時の江戸時代など、日本特有の文化が華々しく開花した時代もありますが、大きな流れで見ると、外国の文化を取り入れ、それを和様化するという繰り返しの中で、日本美術の流れができたと言われています。繊細な情緒や哀愁、また、四季の特徴を強く意識した自然観、小さな物を慈しむ精神などが、日本美術の根底にあると言えるでしょう。
ここでは、美術史という流れの中で日本の美術を語るのではなく、日本を訪れた外国人の方が日本の美術を鑑賞する手助けになる内容という観点から日本の美術について触れたいと思います。
日本を訪れた外国人の方は、ほとんどの方が一度は仏教の寺院を訪れることになります。仏教それ自体に興味がなくても、必ず1つか2つの寺院を訪れる人が圧倒的に多いです。それもそのはずです。なぜなら、日本にはとにかく寺院が多いからです。2020年の調べによりますと、日本にはコンビニエンスストアが55852店舗あり、それに対して仏教系の寺院が77042件もあるとのこと。尚、神道系の寺院に至っては86648件もあるそうです。とにかく、仏教系の寺院の数がコンビニエンスストアの数よりも多いことから、観光名所となっている国宝級の有名なお寺までいかなくても、仕事で日本を訪れた方でも忙しい時間の合間を縫って近くのお寺を訪れた、という話しはよく耳にします。そしてそうやって訪れたお寺で仏像に触れ、感激をしたり、色々な素朴な疑問を抱いたりするようです。
実際、仏教美術・仏像美術は日本の美術の中でも大変大きな比重を占めています。ここでは簡単に仏像美術に関しての情報を整理してみたいと思います。
色々な名称の仏像が数多く存在しますが、種類としては大きく分けて次の4種類に分けられるということが基本となります。
① 如来(にょらい)
② 菩薩(ぼさつ)
③ 天(てん)
④ 明王(みょうおう)
この他にも有名な僧侶の像などもありますが、基本的には上の4つの種類の仏像の意味を理解し、見分けられるようになったら、ぐっと仏像が身近に感じられます。
下記の説明は京都国立博物館のWEBサイトのページ ➡Go to the site を参考に記載しています。
■天(てん)
天、もしくは「天部(てんぶ)」というのは、簡単にいうと天界に住むものの総称で、「神」のことを指します。仏教成立以前に民間で信仰されていたバラモン教やヒンズー教などの神々が仏教に帰依したもので、仏教の守り神となったものです。シルクロードを経て、中国、そして日本へと仏教が伝えられる過程で、それぞれの場所で現地の神々も守護神として取り入れられました。
梵天(ぼんてん)はインドの古代宗教で、世界の創造主として尊崇された神「ブラフマー」ですし、帝釈天(たいしゃくてん)はインドの古代宗教で軍神・武勇神インドラという神でした。
寺院でもよく目にする機会がある七福神(しちふくじん)は福徳の神として日本で信仰される七柱の神たちです。七柱は一般的には、「恵比寿(えびす)」、「大黒天(だいこくてん)」、「福禄寿(ふくろくじゅ)」、「毘沙門天(びしゃもんてん)」、「布袋(ほてい)」、「寿老人(じゅろうじん)」、「弁財天(べんざいてん)」とされており、それぞれがヒンドゥー教、仏教、道教、神道など様々な背景を持っているとされています。下記、それぞれの神を簡単に説明したいと思います。
・恵比寿(えびす)は「商売繁盛」や「五穀豊穣」をもたらす神。大漁や航海安全をもたらすと信じられています。唯一日本由来の神です。右手に釣り竿、左脇にタイを抱えていて笑顔であることが特徴です。
・大黒天(だいこくてん)はヒンズー教の神です。ヒンドゥー教の中の破壊や創造などさまざまな面を持つシヴァ神の化身であるマハーカーラが大黒天です。マハーカーラはシヴァ神が世界を灰にする時になる姿ですが、日本に入ってきた段階で日本古来の大国主神(おおくにぬしのかみ)と同一視されるようになりました。そのご利益は、財産や商売繁盛がもたらされると信じられています。振ると欲しい物が何でも出てくる打出の小槌を持ち、大きな福袋を抱えているのが特徴です。
・福禄寿(ふくろくじゅ)は中国の道教が発祥となっている神で、道教の中で「3つの幸せ」とされている「子宝に恵まれる」「お金に恵まれる」「長生きできる」ことをもたらしてくれるものと信じられています。頭が長く、白いひげの仙人姿が特徴です。
・毘沙門天(びしゃもんてん)はインドのヒンズー教の富と財宝の神であるクベーラ神が元になっています。仏教に取り入れられてからは、戦いの神としてしだいに民衆に信仰されるようになりました。魔除けのご利益もあると言われています。武将のような恰好をしているのが特徴です。
・布袋(ほてい)は中国に実在したといわれる仏教の禅僧が元になっています。信者からもらった生活必需品を入れた大きな袋を持ち歩き、必要な人に分け与えていたと言い伝えられています。福や財をもたらす神です。ぽんと前に突き出た大きな丸いお腹と大きな耳たぶが特徴です。
・寿老人(じゅろうじん)は中国の道教が発祥の長寿の神です。不老不死の仙人がモデルになっています。頭巾をかぶって長い白いひげを持っているのが特徴です。福禄寿と間違いやすいので、老人で「頭巾」をかぶっているかどうかを目印にするとよいです。頭巾をかぶっているのが寿老人で、頭巾をかぶっていなくて長い頭をむき出しにしているのが福禄寿です。
・弁財天(べんざいてん)は、元はインドのヒンドゥー教の川の女神であるサラスヴァティー神でした。仏教に取り入れられ、音楽・弁才・財福・知恵の徳のある天女となりました。水の神という性質も残しているため、稲作が盛んで水を欠かすことができない日本では大変親しまれ、日本各地の水辺や島などでお祀りされています。七福神で唯一の女神であるため、それを目印にするとよいでしょう。

神奈川県小田原市の潮音寺境内にある七福神像
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東京観光で必ず一度は訪れる機会がある浅草の浅草寺の入口にある有名な雷門。中央の巨大な提灯を挟んで両側に配置されているのが「風神雷神(ふうじんらいじん)」像です。 この「風神」「雷神」も天部にあたります。右側が風神で左側が雷神となります。

浅草寺の雷門に配置された風神雷神
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■明王(みょうおう)
仏像の種類の最後は、明王像です。
インドで昔から信仰されていたヒンズー教が、のちに仏教に取り入れられて発達したのが密教です。ちなみに仏教には「顕教」と「密教」の2種類があります。顕教とは釈迦の教えを言葉で明確に伝えるものです。一方密教は、言葉だけでは表せない物事の真理や、生きながら仏になる可能性を説いているものです。
明王というのはその「密教」特有の尊像です。ヒンズー教の神々の姿が取り入れられたので、多くの顔や腕を持っています。大日如来の命令を受けて仏教に未だ帰依しない人々を仏教に帰依させようとする役割を担っています。優しい心だけでは救えない人々のために、不動明王をはじめ、その多くの像が怒った表情をしているそうです。
代表的な明王像としては次の3つの明王が挙げられます。
・不動明王(ふどうみょうおう)は煩悩を断ち切り、仏の道へと人々を導きます。 不動明王に祈願することで、不動明王が心の中に潜む悪を燃やし消してくれると言われています。不動明王が持っている剣には「あらゆる物を打ち砕くことができる」力があると言われています。元々はインド神話に登場する三大神の一人「シヴァ神」が原型であるとされています。

東大寺の国宝不動明王像
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・愛染明王(あいぜんみょうおう)は一言で形容すると「愛の神」となります。仏教では愛欲は煩悩の1つであり、煩悩を捨てることが悟りを開く道であるとされていました。しかし密教では煩悩があるからこそ悟りを求める心が生まれる、ということで、その教えを象徴しているのがこの愛染明王だそうです。ですので愛欲を浄化して正しいエネルギーに変えるのが愛染明王だということになります。全身赤色をしているのが特徴です。縁結び、良縁成就、夫婦和合の他、人間関係の調和などの「敬愛」のご利益などのご利益があると信じられています。

東京国立博物館所蔵の木造愛染明王坐像
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・孔雀明王(くじゃくみょうおう)は毒蛇を食べる孔雀が神格化されたヒンズー教の神がその元となっています。インドでは元々は女神だったそうです。仏教では煩悩や苦悩、恐怖、災厄などをすべて追い払って人々を幸福に導くとされています。明王には珍しく怒った表情をしていなく、武器も持っていないことが特徴です。
