
カザフスタンの文化
ドンブラ
カザフの民族楽器といえば、真っ先に思い浮かぶのがドンブラです。洋ナシ状のボディに、長細いネックを持つ二弦擦弦楽器のドンブラは、まさにカザフスタンを代表する民族楽器となっています。
「弦を叩く」演奏方法と、「軽くつまみながらはじく」形で演奏方法、という二種類の演奏方法があります。
現在、ドンブラは民族音楽に携わっているミュージシャンにとっては必須の楽器となっています。そして、ドンブラがカザフスタンを代表する楽器であることを象徴するように、7月の第1日曜日はカザフスタンにおいて「ドンブラの日」という祝日になっています。
演奏方法を観たりやドンブラの音色を聴いてみたい方はYouTubeのこちらの動画をお勧めします。こちらの動画もお勧めです。動画はドンブラの紹介場面から始まります。
ダビル
ダビルはカザフスタンの民族楽器の打楽器です。両面が革で覆われ、縁には持ち手が付いています。ダビルは大きな音を出すので、古くは合図を出すのに使われていました。この楽器は通常、手弾きかコサック鞭(ナガイカ)を使って演奏されます。現在、オーケストラ用のダビリとして、木製ボディの小型のものと、銅製ボディの大型のものの二種類があります。
演奏方法を観たりダビルの音色を聴いてみたい方はYouTubeのこちらの動画をお勧めします。動画はダビルの紹介箇所から始まります。

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コブス
コブスもまたドンブラと並んでカザフスタンの民族楽器を代表するものとなっています。コブスは二本の弦から成る弓形の楽器で、木でできていて、下に伸びた口の開いた鉢のような形をしています。またコブスの下部は革で締め付ける造りとなっています。弦は馬の毛でできています。コブスは、動物の鳴き声を彷彿させる、ビロードのような豊かな音色を持っています。現在は、カザフの民族楽器系のアンサンブルやオーケストラで積極的に使われています。
演奏方法を観たりコブスの音色を聴いてみたい方はYouTubeのこちらの動画をお勧めします。映画『タイタニック』の美しいサウンドトラックを古の遊牧民の民族楽器コブスで堪能いただけます。またこちらの動画もお勧めです。コブス紹介の場面から始まります。

ジェティゲン
少し形態が日本のお琴を思わせるジェティゲンは、伝統的なものとしては7本の弦を持つ撥弦楽器です。現在は弦の数が15本となっています。形状は長方形で、材質は木製。弦にはお琴でいうところの「琴柱」的なピンが張られており、このピンを使って音程を調整します。ジェティゲンは今でも、カザフの民族楽器系のアンサンブルやオーケストラで使われています。
演奏方法を観たりジェティゲンの音色を聴いてみたい方はYouTubeのこちらの動画をお勧めします

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シェルテル
シェルテルは、カザフスタンの古代の弦楽器で、2本もしくは3本の馬の毛でできた弦を持つ撥弦楽器で、演奏方法はドンブラと似ています。ただ、ボディには革が張られていて、ドンブラよりも強い音が出ます。シェルテルは、物語や伝説、歌の伴奏用の楽器として使われていました。
演奏方法を観たりシェルテルの音色を聴いてみたい方 はYouTubeのこちらの動画をお勧めします

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シビズギ
シビズギは笛に似ているカザフの民族楽器です。葦、動物の骨、木、銅など、色々な材質から造られていました。穴の数は4~6とされています。
カザフスタンには円錐形でより短い東部のシビズギと、より大きくて長さ的にもより長い西部のシビズギの2種類のシビズギがあり、演奏方法もそれぞれ異なります。
演奏方法やシビズギの音色を聴いてみたい方はYouTubeのこちらの動画をお勧めします。動画はシビズギの紹介場面から始まります。

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サズスィルナイ
日本でもお馴染みの楽器オカリナを彷彿させるカザフの民族楽器サズスィルナイ。丈夫にするために動物の毛を混ぜた粘土から造られており、卵型、動物の形状、鳥の形をしています。暖かく、柔らかい音色をしており、鳥のさえずりや、風のそよぎを思わせる楽器です。子どもたちの音楽性を養うために、玩具としても使われてきたと言われています。
演奏方法やサズスィルナイの音色を聴いてみたい方はYouTubeのこちらの動画をお勧めします。動画はサズスィルナイの紹介場面から始まります。

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シャン・コブズ
日本では「口琴」という名で知られている楽器です。
カザフの口琴「シャン・コブズ」は、竪琴を小さくしたようなリード楽器で、これを口に当て、空気を吐いたり、舌の位置を変えたりすることで、金属板が共鳴し、さまざまな音の高さを出す原理となっています。雨の音、風の音、滝のせせらぎ、馬の駆け足の音、鳥のさえずりなど様々な音色を表現し 、また、倍音が豊富であるためその音色は人の声にも似ていると言われています。
演奏方法やシャン・コブズの音色を聴いてみたい方はYouTubeのこちらの動画をお勧めします。動画はシャン・コブズの紹介場面から始まります。

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本格的な音楽文化の発展が始まったのは、ソ連邦になってからです。
独立後もカザフ音楽は発展を続け、世界の音楽文化の一翼を担っています。
少しその流れを見てみましょう。
19世紀には、カザフの音楽は西欧の人々の興味を惹きつけ、隣国ロシアをはじめ、様々な西欧諸国の音楽家や美術評論家がカザフ音楽に注目するようになります。中でもロシアの東洋学の研究者達が率先してカザフの民間伝承を体系的に研究・保存するようになり、一方で、ロシアの影響はカザフの音楽を豊かにし、新しい世代の作曲家や演奏家の出現につながりました。その代表的な存在として、アバイ・クナンバエフ(Абай Кунанбаев)、ジャヤウ・ムサ・バイジャノフ(Жаяу Муса Байжанов)、クルマンガジ・サギルバユイ(Курмангазы Сагырбайулы)、イキラス・ドゥケノフ(Ыкылас Дукенов)等が挙げられます。
1930年代になると本格的な職業としての音楽芸術の形成が始まります。ロシアから招聘されたエフゲニー・ブルシロフスキー(Евгений Брусиловский)、ワシリー・ヴェリカノフ(Василий Великанов)、ボリス・エルザコヴィッチ(Борис Ерзакович)らは、カザフで最も著名な、現代でいう「プロデューサー」の一人であるアフメット・ジュバノフ(Ахмет Жубанов)らとともに、カザフ民族楽器オーケストラ、フィルハーモニー交響楽団、カザフオペラ・バレエ劇場の前身となる音楽劇スタジオの設立を行います。そして、カザフスタンで最初のオペラが上演されます。その後、カザフの歌謡曲や、クラシック音楽の伝統に基づいた室内楽や交響曲のジャンル、伝統音楽の合唱団やソビエト歌謡を歌う合唱団など、多種多様な新しい音楽ジャンルが生まれ、発展していきます。中でも特筆すべきは1939年、カザフスタン作曲家同盟が設立されたこと、そしてカザフスタンにおけるクラシック音楽発展の母体となる音楽院が1944年、アルマトイ市に開設されたことでしょう。それにより戦後は、オペラ、バレエ、交響曲など、カザフのアカデミックな音楽が急ピッチに発展し、見事な華を咲かせるようになります。
カザフスタン出身の演奏家としてはバイオリニストのアイマン・ムサホドジャエワ(Айман Мусаходжаева)やピアニストのジャニヤ・アウバキロワ(Жания Аубакирова)が挙げられます。

アイマン・ムサホドジャエワ
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ジャニヤ・アウバキロワ
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歌謡曲の世界では、ソ連時代を代表する歌手としてナギマ・エスカリエワ(Нагима Ескалиева)やローザ・ランバエワ(Роза Рымбаева)が挙げられます。
ナギマ・エスカリエワはアルマ・アタ市からアスタナ市に首都が移された時に、最初の『首都の初めての朝』(«Первое утро столицы»)という曲を歌い、現在ではこの曲はアスタナ市の非公式の「市歌」とされています。バウィルジャン・イサエフとナギマ・エスカリエワが歌う『首都の初めての朝』は、YouTubeのこちらのチャンネルでお聴きいただけます。
カザフスタン歌謡界の女王ローザ・ランバエワはバルト海から太平洋まで広がる広大なソ連全土にたくさんのファンを持っていました。清楚で華奢な姿と、4オクターブの音域をカバーする音色豊な声は、数多くの人々の心を魅了しました。ソ連を代表するヒット曲メーカー達ロベルト・ロドジェストヴェンスキー歌詞・ライモンド・パウルス作曲の『愛が訪れた』(«Любовь настала»)は、文字通りカザフスタンのみならず、ソ連全土を代表する大ヒット曲になりました。ローザ・ランバエワの心を打つ美しいバラード『愛が訪れた』は、YouTubeのこちらからお聴きいただけます。(この動画のコメントを読むと、ローザ・ランバエワがいかにソ連の人々に愛されていたかがひしひしと伝わってきます。歌の持つ力もあり、涙なくしては読めないコメントも多いです)
1990年代前半は、カザフの民謡のモチーフを現代風にアレンジした曲を歌うアーチストが増えました。1994年に結成されたグループURKERは、音楽を通して愛国心や国の伝統の復活、アイデンティティーという概念に触れています。(URKERのYouTube公式チャンネルであるこちらでご視聴いただけます)。また、90年代のカザフスタンの音楽界といえば、一斉を風靡したバンドA-Studio(«А-студио»)の存在をなくしては語れません。『愛していない人』(«Нелюбимая»)、『ジュリア』(«Джулия»)、『愛の兵士』(«Солдат любви»)といった曲は、途切れることなくテレビ、ラジオ、ライブコンサートでずっと流れ続けていました。まさに、90年代のカザフスタンを代表する曲となっています。
また、1995年には ラップグループRAP ZONEがカザフスタンの音楽業界に登場し、若者の間で大ブレイクします。特にその大ヒット曲『シュム・ガム・ブム・反転』(«Шум-гам-бум-переворот» YouTubeのこちらで視聴できます)は、若者たちの讃歌となり、RAP ZONEという落書きが塀や建物の外壁を飾るようになります。
2015年に入ると、J-pop, K-popと並んでQ-popという潮流が表れ、世界中に広がります。Q-popは、ウエスタンエレクトロポップ、ヒップホップ、ダンスミュージック、ブルースなどの要素を取り入れたもので、2015年にデビューしたグループNINETY ONEがこのジャンルの創設者であると言われています。NINETY ONEの曲は、NINETY ONEのYouTube公式チャンネルであるこちらで視聴できます)
ポピュラー音楽界でカザフスタンを世界的に有名にした歌手として外せない存在は、驚異の6.5オクターブ歌手ディマシュ・クダイベルゲン(Димаш Кудайберген)でしょう。日本でもNHKやフジテレビ、TBSテレビ、数々のラジオ局にも出演し、たくさんのファンがいるので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。2021年にディマシュ・クダイベルゲンが日本語で歌う玉置浩二作曲 松井五郎作詞の『行かないで』(Ikanaide)は、ディマシュ・クダイベルゲンのYouTube公式チャンネルこちらで視聴できます。

ディマシュ・クダイベルゲン
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